悪魔。イワンの悪夢

新潮文庫 『カラマーゾフの兄弟(下)』 ドストエフスキー著 原卓也訳より抜粋


悪魔のセリフ
「強制でどんな信仰が生まれるというんだい?おまけに、信仰にはどんな証拠も役に立たないんだ、特に物的証拠なんぞね。トマスが信仰を持ったのは、復活したキリストを見たからじゃなく、それ以前から信仰を持ちたいと願っていたからなんだよ。…」
P246

悪魔に対してのイワンのセリフ。
「…ただ、俺は何か恥ずかしくてならないんだ…部屋の中を歩きまわりたい。ときおり、この前みたいに君の姿が見えなくなり、声さえきこえなくなるけど、君のしゃべっていることはいつだって見当がついてるさ。なぜって、それは俺だからさ、しゃべっているのは俺自身で、君じゃないんだ!…」
P247

悪魔に対してのイワンのセリフ。
「お前は虚偽だ、俺の病気なんだ、幻影だよ。ただ、どうすればお前を退治できるか、それがわからないし、もうしばらく苦しみぬかなければならぬことも承知している。お前は俺の幻覚だ、お前は俺自身の、といっても俺のある一面だけの化身なんだ…俺の思想や感情のうちの、もっとも醜い愚かなものの化身だよ。…」
P248

悪魔とイワンの会話
「…僕は悪魔だからね。et nihil humanum a me alienum puto(人間のものは何一つ無縁じゃないんだよ)」
「なに、何だって?Satan sum et nihil humanum だと…悪魔にしちゃ、気がきいてるぜ!」
P252

悪魔のセリフ。
「べつに嘘をついているわけじゃない。すべて真実さ。残念ながら、真実ってやつはほとんど常に、ピントはずれなものだからね。みたところ、君はあくまでも僕に何か偉大な、ひょっとすると美しいものさえ期待してるようだね。実に残念だよ、だって無い袖は振れないもの…」
P255

イワンの質問と悪魔の返事。
「お前たちのあの世には、(その千兆キロ以外に)どんな苦しみがあるんだい?」
なにか異様に張りきって、イワンがさえぎった。
「苦しみだって?ああ、きかないでほしいな。以前はいろいろあったんだが、この節はもっぱら精神的なものがはやりだして《良心の呵責》なんて下らんものになっちまった。これも君らの、《慣習の緩和》とやらのせいではやりだしたのさ。…」
P260

上記の悪魔の返事の続き。
「…これで、だれが得をしたとおもう。得をしたのは良心のない連中だけさ。なぜって、良心がまるきりなけりゃ、良心の呵責もへちまもないからね。その代わり、まだ良心や誠意の残っていたまともな人たちは苦しむようになったわけだよ…これだから、まだ準備もととのわぬ地盤に、それもよその制度をまる写しにした改革を行うなんて、害をもたらすだけさ!昔の火あぶりのほうがよかったろうにね。…」
P260

悪魔からイワンへのセリフ
「…動揺だの、不安だの、信と不信の戦いだの、そういったものは時によると、君のような良心的な人間にとっては、いっそ首をくくるほうがましだと思うくらいの苦しみになるからね」
P263



大審問官の章は特にオススメです。是非手にとってみてください。

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